そして電話が

僕は勤め人

毎日職場に通い仕事をして月に一度のサラリーを受け取り生計を立てる

生真面目で忠実な勤め人は仕事時間中のプライベートな電話には出ない

もしプライベートな電話があれば着信が残るので仕事時間外に後ほどコールバックする

それが基本スタンスだ

しかし今はそんなことは言ってはいられない

自分の脳内で何かが起きているのかもしれないのだ

ジャケットのポケットに入れてある携帯電話を何度も握りしめ30分ほどの間隔で着信を確かめる

着信に気づけばすぐに電話に出られるように

着信時に気づかなくてもすぐにコールバックできるように

もちろんその時にはさりげなく自分の席を離れて人に聞かれないところに行ってである

準備はできている

あとは電話が鳴るのを待つだけである

一日目,電話はない

日曜日だからなくて当たり前だ

二日目,電話はない

週初めの月曜日だからきっと忙しいに違いない

でもね,脳動脈瘤かもだよ,脳だよ,脳

三日目,電話はない

今日も無かった,もしかして単にそれっぽいものであっただけだったとか

それですぐに連絡する必要もなく次の定期受診の際に穏やかに話をするとか

そんな考えにほっと気持ちが和んでいる

仕事がひと段落した18時ころ,とりあえず携帯電話を確認してみる

なんと着信があるではないか

しかも留守電も入っているっぽい

16時30分ころ見た時には何も無かったはず

着信を確認してみる

かかりつけのあの脳神経外科医院からである

17時前の着信である

まずは訂正しておこう

三日目,電話が鳴っていました

生真面目で忠実な勤め人でも緊張感が切れてしまい見過ごしてしまうことがある訳だ

さて留守番を聞いてみよう

えっ,へっ,なに,なんで

かかりつけ医院のスタッフからの伝言ではない

かかりつけ医院の院長でかつ主治医のS医師自らの直々の伝言である

S脳神経外科のSです

ご連絡をいただければ幸いです

これだけである

気になる,気になる,気になる

直ぐにでもコールバックしたいが診療時間が終わっているので繋がらないだろう

明日の朝,診療時間開始直ぐに電話して直接話を聞きに行こう

思考が巡り巡る

なんとも言えない夜だ

もどかしくてたまらない

ベッドの中であれやこれやと素晴らしい想像力が発揮されてなかなか寝付けない

きっと朝まで眠れない夜になるはずだ

しかし考え疲れた脳と身体は素直である

いつの間にか,すやすやと眠りに入る

そして朝が訪れた