その話の先

なんとも落ち着かない朝だ

この気分はどうも居心地が良くない

気分が乱れると気持ちが乱れ,そして感情が乱れてしまう

医師の話を冷静に聞けるのだろうか

いやいや考え過ぎないようにして心静かにして落ち着いていこう

ひとまず出勤して職場から電話をかける

昨日S先生から電話をいただきました

お話があるようですので午前中のうちに伺いたいと思いますが,S先生はいらっしゃいますか

アポイントが取れたので,職場にかかりつけの医院に行くとだけ言って時間休を申請する

医院に着いて受付をして看護師に呼ばれ血圧を測る

いつもの定期受診と同じである

看護師は話しかける

先生からのお話を聞きに来られたのですね

何気にいつもより高めに血圧の値が出ている

私が話しかけたからかも,ごめんなさい

いえいえ,お気になさらずに

ぎこちない表情で返事をしている

名前を呼ばれ遂に診察室に入る

S医師が穏やかに話し始める

H先生が大学に画像を持ち帰って脳血管の専門医に診てもらったところ,脳動脈瘤の疑いがあるようです

精密な検査をすることをお勧めしますので大学病院の脳神経外科を受診してみませんか

そうですね,はっきりしたいので大学病院に行ってみます

淡々と冷静に受け答えができていて我ながら感心してしまう

ちなみにどの辺りの血管ですか

二か月ほど前の最新MRI画像を示しながら

目の奥のこの血管のここのところですね

ぼやっとしてハッキリしない画像である

ここである疑問が頭の中をよぎっていく

S医師はこの脳動脈瘤ぽいものに気づいていたのだろうか?

疑問の本質をしっかりと考える前に思わず口に出してしまった

いやいや脳動脈瘤の疑いがあるかもしれないものが写っているようだが,この画像からははっきりとは診てとれないので,現状では経過観察でと考えていましたよ

うまく流されてしまった感じである

僕としてはいろいろとツッコミどころがある返答な訳だが,今の優先順位はここではない

大人の受け身でそうですかと流して,大学病院のほうをよろしくお願いしますと伝える

いつ受診しますか

年末でもあるし年明けにしますか

紹介医の外来は月曜水曜の午後になりますね

年明けなどと悠長なことは言ってはいられない

優先すべきは頭の中で何が起こっているのかということだ

職場の予定表を頭の中で素早くトレースする

そして日程を探る

12月28日水曜午後でお願いします

ではこちらから外来予約の連絡を入れます

紹介状を書きますので待合室でお待ちください

よろしくお願いしますと言い診察室を出る

待合室に座っていると診察時にいたスタッフが側にやってきた

大学病院に予約の連絡を入れました

後ほど大学病院の予約受付センターから確認の電話があります

日時についてはその時に改めで確認ください

不安感もなく和やかな表情で伝えてくれる

はい,ありがとうございます

医師の意図をわかりやすく伝えるスタッフの存在はとても重要である

紹介状を受け取り自宅で電話を待つ

程なくして連絡が入る

大学病院予約受付センターです

12月28日のK先生の受診ですね

12時30分で予約を取りました

10分前には受付を済ませて紹介状を持って脳神経外科外来にお越しください

新規ですので待ち時間が長くなるかもしれませんがご承知ください

実にスムーズである

やっとこのもどかしい感じが少しは晴れそうだ

ちょうど1週間後である12月28日にはそれが何であるのか,きっとはっきりとわかることになるだろう

少し気が緩んでしまったからだろうか

ちょっとした好奇心には逆らえずに,紹介状をチラ見してみる

その病名・症状欄には

前交通動脈未破裂脳動脈瘤疑い

との記述がなされている